オペアンプの聴き比べ － NS phonoEQ 2

復刻版の「NS phonoEQ 2」では、標準仕様としてオペアンプICをICソケットに挿し込んで実装する方式になっています。そのため、オペアンプICを比較的容易に挿し替えて、好みの音質のICを使用することができます。

そのメリットについてご紹介しようと思って実際に聴き比べを行なったところ、今まで使用していた OPA2604AP よりも NL8902AN の方が音質が優れていることに気付きました。好みの問題以上の違いがあると感じました。そこで、当工房のフォノイコライザーアンプ NS phonoEQ 2 では、オペアンプに NL8902AN を使用することにいたしました。その結果、従来機よりさらに情報量が多く、音楽性の豊かな再生音が実現しました。

このオペアンプは表面実装の SOP パッケージですので、自前の変換基板で DIP 化して搭載します。


この記事では、いくつかのオペアンプを交換して音質の違いを聴き比べてみた試聴感をご紹介します。
聴き比べに使用したのは、MUSES8820、MUSES8920、NL8802、NL8902です。

このページの内容：

• OPA2604AP と MUSES8820 の比較
• MUSES8820 と MUSES8920 の比較
• NL8802 と NL8902 は?
• NL8902 搭載 NS phonoEQ 2 の測定データ
• MUSES01 と MUSES02 は? (近日公開)

OPA2604AP と MUSES8820 の比較

最初に聴き比べたのは、MUSES8820D です。秋月電子の紹介文には「MUSES8820は、MUSES01/02の求めた高音質の開発コンセプトを踏襲しながら、チップ及びフレーム材料の最適化を図り生産能力向上とコスト低減を実現したバイポーラ入力タイプの2回路入りオペアンプです」と書かれています。本稿の執筆時点で、1個￥480で購入できます。一方の OPA2604 の方は、初代「NS phonoEQ」を販売していた2010年に1個￥565で購入したものです。なお、何回も抜き挿しして比較試聴することになるので、写真のようにICソケットを装着して、ソケットごと抜き挿しするようにしました。

第一印象として、OPA2604AP よりも高域に伸びがあり、低域にも厚みがあって、音楽がダイナミックに鳴ると感じました。さらに聴いていると、各楽器のリアルさ生々しく感じられ、オーケストラがフォルテシモに達しても音が破綻することなく、美しく響くことに気付きました。音の情報量が多いことが奏功しているのだと思います。この「情報量が多い」という特徴は、初代 NS phonoEQ の開発や改良の過程で常に意識していた目標です。

MUSES8820 と MUSES8920 の比較

入手できた MUSES8920 は、表面実装のSOP8タイプのものでした（MUSES8920AE）。そこで、共立エレショップで販売されている変換基板を使用してDIP化しました。

MUSES8920 は入力部に J-FET が搭載されているところが MUSES8820 との主な違いです。音を聴いてみますと、MUSES8820 に比べて音源がやや遠くに離れた印象です。低域の厚みが増し、ティンパニが力強く鳴ります。弦楽器の音が滑らかに聞こえ、音楽性が豊かに感じます。

NL8802 と NL8902 は?

NL8802 の試聴感

今度は NL8802ANAE1S を聴きました。MUSES8920 よりも低域方向にも高域方向にも音が伸び、情報量がぐっと多くなったという印象です。力強く、迫力のある音楽を聴けます。残響も豊かです。

NL8902 の試聴感

最後に NL8902AN を聴きました。MUSES8920 と同じく、入力部が J-FET になっています。 NL8802 に比べて高域がさらに伸び、情報量もさらに多くなったように感じます。ただし、最初は高域が出過ぎで、やや荒れているように感じました。少し聴き続けていると、バランスが取れてきました。

楽器の定位が良く、残響も美しく響きます。弦楽器の響きがリアルで、管楽器のさまざまな音色の鳴り分けも見事です。録音されている情報が漏れなく取り出されているという印象を受けます。たいへん音楽性豊かな音で、いつまでも聴いていたくなります。

このオペアンプは、日清紡マイクロデバイス社から 2025/5/13 付けのプレスリリースで発表された新しいICです。Webで広告をご覧になった方もおられるかと思います。特長として、「当社オリジナルブランド“MUSES”で培った高音質化技術及び優れたオーディオ特性により微細な音のニュアンスまで忠実に再現いたします。入力部には、音質面で高い評価を受けているJFET入力タイプを採用しています。長年にわたり高音質オーディオアンプ設計・生産に取り組んできた経験と、継続的な改良の積み重ねにより音質・特性・価格を高次元でバランスした製品です」と説明されています。現在、秋月電子で￥380というリーズナブル価格で入手できる優れものです。

比較の結果は

これは全くの偶然なのですが、試聴した順番に好ましい音が鳴るというのが私の感想でした。OPA2604 < MUSES8820 < MUSES8920 < NL8802 < NL8902 という順序です。もちろん好みの問題もあるかとは思いますが、NL8902 の情報量の多さは「一聴瞭然」ですので、NS phonoEQ 2 にはこのオペアンプを搭載することに変更しようと決めました。

NL8902 搭載 NS phonoEQ 2 の測定データ

耳で聞く違いが測定データにも表れるのかどうか興味が湧きましたので、各種スペックを測定して比較してみました。

まず、RIAA偏差をグラフにしてみたところ、MCモードでもMMモードでもほとんど差のないグラフになりました。左側が左チャンネル、右側が右チャンネルの測定データで、各グラフの青色の線がOPA2604、オレンジ色の線がNL8902です。

その他の測定データを次の表にまとめました：

ひずみ率は、NL8902の方が若干優秀です。また、最大入力はNL8902の方が大きくなっており、より高いフォノカートリッジ出力に対応できるゆとりが生まれました。これは、NL8902の方が、電源電圧により近い信号レベルまで増幅できることを意味しています。

MUSES01 と MUSES02 は?

こうなると、NS phonoEQ で使用するオペアンプとして試聴した4つの IC の源流である MUSES01 と MUSES02 の音も自分の耳で確かめたくなりました。近日中に結果をご報告します。

（公開: 2025/12/7）